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第一話 魔鏡 (有)仁メタル 代表取締役社長 田嶋光三 「魔鏡」という言葉を知っていますか。外国でも「Makio」と呼ばれています。古代の青銅鏡のそもそもは、魏志倭人伝にあるように卑弥呼に贈られたものとする魏鏡説と、そうでなく倭国、すなわち日本で鋳造されたという論争が繰り広げられています。しかし、鋳造技術に関わってきた私には、そのことよりむしろ、同じ青銅鏡の「魔鏡」の存在に、より興味が引かれます。
阿弥陀如来像魔鏡 その鏡とは、既にご存知かもしれませんが外観はごく普通の青銅鏡なのですが、その表面に光を当てて光芒を壁に写すと、忽然としてマリア様とか十字架のキリストが現れるといった摩訶不思議なもモノなのです。慌てて裏面をひっくり返しても、其処には松竹梅とか鳳凰に天女といった、なんでもない絵柄が描かれていて、それらしき模様はどこにも見当たりません。こんな工夫を考えた鏡師と呼ばれる匠たちの、緻密な技巧と智恵に驚嘆するしかないのです。 この「魔鏡」は、秀吉の切支丹禁止令に端を発し弾圧が厳しくなるにつれて工夫の精密度を増し、完成したものと思います。
隠れ切支丹 深夜の闇に紛れて村人達が集い、微かな灯火によって写し出されたマリア像に手を合わせ、口々にオラショを唱え、カサカサの苦労が染みついた指で十字を切る。バテレンの神の奇跡と信じ畏怖の念に痺れながら、辿る道は十字架と、大いなる安らぎと、微笑を浮かべていたと思うのです。
住友重機械の林洋一郎所長のご紹介を賜り、高橋妙龍師を新居浜に尋ねました。偏光顕微鏡の権威、元東大教授、正田篤五郎博士とご一緒しました。研磨屑で眼球を傷つけ視力が弱くなってしまった妙龍師に、魔鏡の造型から注湯、研磨まで見せて頂きました。
高橋妙龍師 溶解 後日、完成された魔鏡が送られてきました。ハロゲン光源に浮かび上がった十字架のキリストに身震いしたのです。 近年、元日本鋳物学会会長の石野亨近畿大学名誉教授を始めとして「魔鏡」のメカニズムの探求がなされています。鏡面研磨の際に起きる表面の模様に沿った歪みが原因とか。現在の科学がその原理を解明したのですが、ミステリィーのままが、なんだか良かったような気もするのです。 |