第十一話 熱処理(日本刀を主体に)アラカルト6

●焼ムラとは…

日本熱処理学会名誉会員 大和久重雄


焼ムラ:

 焼ムラも焼入れのトラブルの一つですが、焼割れや焼曲りほど重大ではありません。焼ムラは焼きがバッチリ入ってチンチンに硬いところと甘焼きになって軟らかい所が混在する状態、つまり硬さムラです。

 焼ムラは水焼入れの際、鋼表面肌に水蒸気膜が出来てこの離脱がムラになるからです。水蒸気膜を早く逸散させてやればいいのです。それには水の攪拌を十分に行うことが大切です。それから鋼の表面肌にトノコ(砥の粉)や粘土を薄く塗ると焼ムラが防げます。素肌よりも薄くマスキングしたほうがムラなく均一に早く冷えるからです。厚く塗ると反って冷却が遅くなって焼きが入らなくなりますから注意しなくてはいけません。厚化粧よりも薄化粧のほうがいいのです。

 日本刀の焼入れにはこの原理を体験的に利用しているのです。トノコ(砥の粉)を薄く塗ったところは早く冷えてチンチンに焼きが入り(沸{ニエ}という)、厚く塗ったところは遅く冷えて甘焼き(匂{ニオイ}という)になるのです。つまり、焼ムラを作っているわけです。

 焼ムラで軟らかいところは青色に着色しますので適当に配分するとキレイな色模様になります。これをムラクモ焼きといって錆にも強いので、美術肌に応用されています。又焼ムラで硬軟適当に配置すると、擦られ磨耗のときに硬いところで面圧を受け、軟かいところが油溜めになって潤滑作用をするので耐磨耗性がアップするのです。ベタ金で硬いところばかりが能ではありません。硬いなかにも軟かいところがあるというのが案外役に立つんですね。人間と同じです。

 私は日本刀を水焼入れでなく、油焼入れさせました。焼割れ防止のためです。そしたら刀匠が「大和久さん、刃物は出来ましたが日本刀は出来ません」というのです。油焼入れの日本刀は切味がOKですが、肌色が美術的ではないのです。つまり美術的要素に欠けているのです。それから私は日本刀の油焼入れを口にしなくなりました。