|
第十三話 鋼アラカルト ●ステンレス(サビない鋼)のお話し 日本熱処理学会名誉会員 大和久重雄 ステンレス それはサビない鋼のことです。鉄や鋼はサビることが困りものです。しかし、サビるからこそ、リサイクル出来て便利なのです。鉄の原鉱石はサビから出来ている鉄鉱石だからです。そこへいくと、プラステイックはサビないけれど、リサイクルが難しいのです。しかしいくら鉄鋼はサビるからいいとはいっても、そうすぐサビては困ります。サビないほうがいいことはいうまでもありません。ステンレスは表面に薄いサビが出来ていて、このサビでサビを防いでいるのです。ですから、ステンレスはサビないんではなくて、サビにくい鋼といったほうがよいでしょう。 鉄のサビには三通りあります。白サビ(FeO)、黒サビ(Fe3O4)、赤サビ(Fe2O3)の三つです。
皆さんがよく眼にするのは一番上の赤サビでしょう。ステンレスはこの白サビであとのサビを防いでいるのです。だから、このサビをとってしまうと、サビてくるのです。白サビであとのサビを防いでいるのです。これがステンレスです。 鋼がステンレスになるためには、クロム(Cr)という元素がおよそ13%以上入っていることが必要です。だから、ステンレスは高Cr鋼の一種ということになります。 ステンレス鋼には三種類あって、F系、M系、A系といいます。F系は一番軟らかくスプーンやフォークなどに使われます。M系は硬く焼きが入るので、ステンレス刃物や機械部品に使われます。A系はサビには一番強く、いわばステンレスの王様です。しかし、軟かくマグネットには着きません。おまけに熱伝導率は鋼の1/3で、熱膨張係数は5割増しという特性があります。したがって、同じく軟かいステンレスのF系と区別するには、マグネットの吸着によるのがよいのです。マグネットに着くのがF系、つかないのがA系です。しかしここで注意を要することは、マグネットに着かないA系でも、曲げたり叩いたりした部分は硬くなって、マグネットに着くようになるのです。そんなときは手に持って一端をお湯に入れて熱の伝わり方をチェックするのです。早く熱が手に伝わってきたほうがF系で、遅いほうがA系です。これは中々便利な鑑別法です。 A系は焼入れしても硬くなりませんが、1160℃から水冷すると(液体化)耐食性がアップするのです。勿論マグネットには着きません。マグネットに着くようならば、それは水冷が悪かったのです。早く冷やさなければなりません。少くとも3分以内に冷やし切るようにして下さい。 M系は焼入れすると(1100℃、油冷)、硬くなるので刃物に使われます。サビない包丁はM系ステンレスで出来ています。昔はサビに強いということで、A系のステンレスで包丁を作りましたが、これはサビないけれど軟かくてさっぱり切れない、切れるのは息だけという面白い現象がありました。今ではそんなことはなくなって、M系ステンレスで刃物を作っています。だからサビない、しかし切れるという刃物が出来たのです。 刃物といえばドイツゾーリンゲンのヘンケル(双子マーク)の刃物(包丁、鋏)ですね。これはM系のステンレスを焼きを入れて、フリオデュールといって-100℃の冷凍処理が施されているので、切味がいいのです。フリオデュールとは冷めたくして硬いということで、ヘンケル独特の処理で、これは刃身に刻印されています。この刻印のないものはヘンケルのイミテーションといわれています。日本の包丁もこの冷凍処理(サブゼロ処理、クライオ処理ともいわれてます)をして欲しいと思っています。 |