第七話 熱処理(日本刀を主体に)アラカルト2

●金相・変態とは…

日本熱処理学会名誉会員 大和久重雄


金相:

人間に人相、手に手相があるように、金属にも金相があり、鋼に鋼相があります。人相や手相は年齢と共に変わるのと同じように金相や鋼相は温度や冷やし方によって変わります。熱処理というのはこの金相や鋼相が温度や冷やし方によって変わることを利用したテクニックなのです。

金相にはこれを発見した人の名前がついていて、語尾がイトになっています。つまり、イトはん物語です。マルテンサイト(焼入れしたときの金相)、オーテスナイト(焼入れ前の加熱組織)、パーライト(焼きなまししたときの金相)などは有名です。この金相を見るのには光学顕微鏡(100〜1000倍)を使います。

人相や手相には3〜6倍の天眼鏡やルーペを使いますね。ダイヤモンドの癖を見るためには×10のルーペを使います。これは世界共通のやり方です。

 

変態:

金相が変わることを変態といい、へんたいの起こる温度を変態点といいます。変態という言葉は感覚的には良い響きを持っていませんが、急に変わること、いわば変身を変態といい、変化とは違うのです。変化は徐々に性質が変わることで、変態は突然変わること(突然変異)です。

鋼の熱処理にはこの変態をうまく利用するプロセスで、変態点が大切なのです。変態点には5つありますが、大切なのはA1変態点で、727℃(セブン、ツー、セブン、そんな飛行機がありましたね)です。これ以上の温度に加熱しないと焼入れは出来ないのです。この温度(桜実色、赤いボールペンの色)を見るのに、昔は火色によっていたのです。昼間は火色がよく見えないので夜焼入れしたり、窓ガラスを青色に色づけして火色を見易くしたものです。

今では、温度計(サーもカップル)があるので、そんな原始的なことはいりません。しかし、日本刀の焼入れにはまだこの「カン」にたよっています。