第八話 熱処理(日本刀を主体に)アラカルト3

●水焼入れとは…

日本熱処理学会名誉会員 大和久重雄


水焼入れ:

 焼入れの根本は水焼入れです。日本刀は昔から焼入れは水と決まっていました。水は手軽に入手できて使い勝手もよかったからです。この水は汲みたてのものでなく、使い古しのほうが焼きがよく入ってOKなのです。汲みたての水はガスが多く入っていて鋼の肌に焼ムラを起こしやすいからです。一番風呂が年寄りの肌によくないのと同じですね。それから水温も大切です。水温によって冷え方が非常に違うからです。昔は温度計がなかったので人肌といわれていました。温度にすると30℃以下でしょうか。この水温が水焼入れの秘伝で、この温度を盗みとろうとして手を入れたとたんに腕を切り落とされたという有名な逸話があります。お湯では焼きが入りません。水は温度がヤカマシイのです。焼入油は反対に60〜80℃がよいのです。そこで「水は冷めたく人肌に、油は暑く60℃」ということになるのです。

 水にガスが入ると(コカコーラ)冷却が遅くなって焼きが入らなくなりますが、塩が入ると(10%)逆に冷却が倍増されます。そこで今でも瀬戸内海の海水(塩分6〜7%)を汲んで来て焼入水に使っている工場が瀬戸内にあります。水に石鹸はいけません。ですから昔から水槽の傍で手を洗うことは厳禁だったのです。

 水は温度だけでなく、混ざりものによって冷却温度が変わるので、私はこんな夢を持っています。それは日本に多い温泉を焼入水に使うのです。つまり、温泉には鉄泉、アルカリ泉、硫黄泉などいろいろありますから、これらを利用すると七色の虹焼入れが出来ると思うのです。

 しかし、温泉地は人間を軟かくするところですからこんなところに鋼を硬くする焼入工場をつくるなんて不粋と怒られそうですね。しかし、いろんな焼入れができて面白そうではないですか。夢の七色の虹焼入れ。叶わぬ夢ですかね。